「ポリティカル・コレクトネス」 とは? political と politic の意味
ポリティカル・コレクトネスはどうなった?
political correctness(ポリティカル・コレクトネス)がアメリカで広まったのは、1980年代だそうです。日本ではもっと遅かった気がするけど、いつ頃だったろう…。
「政治的な正しさ」が直訳で、簡単に言えば「差別語を使わないようにしよう」ってことです。
一時期、なんでもかんでも「ポリコレ」という風潮があったけど、今は幾分定着して落ち着いた感がありますね。以下は、Wikipediaに載っていたポリコレの用語です。ここら辺は定着してるのでは。
- 看護婦 看護師
- 保母・保父 保育士
- スチュワーデス 客室乗務員、フライトアテンダント、キャビンアテンダント
- トルコ風呂 ソープランド
- 痴呆症 認知症
- 精神分裂病 統合失調症
今思い返してみても、「トルコ風呂」は廃止になってよかったと思う…。
この他にも、「障害者 障がい者、障碍者」や「兄弟 きょうだい」など。「障害者」に関しては、知らずに使ってる人も多い印象です。
「兄弟」を「きょうだい」に変えたのは、「姉妹」も含めるためでしょうか。
英語のポリティカル・コレクトネス
英語の表現も、それはもうたくさんあります。一部を抜き出すと、
- chairman(議長) chair / chairperson
- fireman(消防士) firefighter
- Indian(インディアン) Native American
- postman(郵便配達員) mail carrier
- blackboard(黒板) chalkboard
- blackmail(脅迫、ゆすり) extortion
職業などでは、「男性」を表す man の代わりに person などの単語を使うようになりました。black を使わなくなったのは、人種差別を考慮しているようです。
納得できるものももちろんあるけど、中には「なんじゃこりゃ」なものもあります。たとえば、
- terrorist(テロリスト) freedom fighter(自由の戦士)/ rebel(反逆者)/ protester(抗議者)/ insurgent(反乱者)
- lies(嘘) alternative facts(代替的な事実)
- manhole(マンホール) personhole / utility hole
冗談みたいだけど、冗談じゃありません。なんだか言葉を虚飾で取り繕って、曖昧にした感じです。
Merry Christmas(メリークリスマス)と言う言葉も、キリスト教徒以外の人々を不快にさせるという理由で、別の言葉に変更するよう叫ばれたりしました。宗教的なものに関しては、難しいですね。
- Merry Christmas Season's Greetings(時候の挨拶)
- Christmas Winter Festival(ウインターフェスティバル)
古典文学のタイトルや内容を変えるのも、どんなもんかと思います。
衝撃を受けたのは、マーク・トゥエインの『王子と乞食』の「乞食」が「少年」になったこと。ただ、すべての本が修正されたわけじゃないので、ちょっと安心しました。
『王子と乞食』の原題は、The Prince and The Pauper と、Pで韻を踏んでます。pauper [pɔ́pər] は「貧民」。良くない言葉かもしれないけれど、差別的としてすべて排除するのは、やりすぎな気がして。
ポリティカル・コレクトネスは、言葉尻をとらえるのではなく、「聞いている人の気持ちを害さないこと」が大前提です。差別をなくすというのは、そういうことのはず。
political と politic
political は形容詞ですが、politic という似た形容詞もあります。どう違うのでしょう?
political の意味
political [pəlítikəl] には、いくつか意味があります。ひとつには「政府、または公共問題に関連する」。他に「政治に関連する」「組織内の地位や権力に関連する」。
だいたいは「政治の」「政治的な」くらいに訳しておけばよさそうです。
- He rose quickly through the political hierarchy to become party leader.
(彼は政治階層を急速に昇進し党首になった) - It was a political decision, taken in order to cling on to power.
(権力を維持するために下された政治的決断だった) - Peace organizations are being used as fronts for political agendas.
(平和組織は政治的目的の隠れ蓑として利用されている) - This whole issue has become highly political.
(この問題全体は非常に政治的になっている)
politic の意味
politic は political と全然違います。もとは「政治に関する」「公共問題に関する」の意味でしたが、その頃のものは political に置き換わったとか。
現在の意味は「賢明な」「思慮深い」など。良い意味だけでなく、「狡猾な」「ずる賢い」のようなネガティブなニュアンスでも時折使われます。
発音にもご注意を。politicalは「ポリティカル」と「リ」の音が強いのに対し、politic [pɑ́lətìk] は「ポリティク」と「ポ」にアクセントがあります。
politic
- It seemed politic to say nothing.
(何も言わないことが賢明だと思われた) - It would not be politic to ignore the reporters.
(記者を無視するのは賢明ではないだろう) - He was too politic to quarrel with so important a personage.
(彼はとても抜け目なくそのような重要人物と口論することはしなかった) - Many towns often found it politic to change their allegiance.
(多くの町では忠誠心を変えることが賢明だとしばしば考えられていた)
また、名詞を修飾してもOKです。
名詞の politics の用法
politic に -s が付いた politics は、名詞で「政治活動」「政治学」です。politics に関連する形容詞としては、political のほう。
通常は数えられない名詞で動詞は単数形ですが、「政治の情勢や体系」をいう時は、a が付いたりもします。
- A lot of young people just don't seem interested in politics these days.
(最近は若者の多くが政治に興味を示さないようだ) - Politics is power in action.
(政治は行動における力だ) - I don't want to get involved in office politics.
(社内政治に関わりたくない) - She studied politics at Leicester University.
(彼女はレスター大学で政治学を学んだ) - A politics of the future has to engage with new ideas.
(将来の政治は新しいアイデアに取り組む必要がある)
一方、「政治的見解」といった場合は、複数扱いで動詞も複数形です。
- His politics are extreme.
(彼の政治的見解は極端だ) - His manners were as mild as his politics were extreme.
(政治姿勢が極端だったのと同じくらい彼の態度は穏やかだった) - My personal politics are pretty simple.
(私の個人的な政治観は非常にシンプルだ)
まとめ
political correctness は、あくまで「ポリティカル」な正しさであって、「ポリティク」な正しさではないわけですね。形容詞の politic と名詞の politics で意味が違うのは、罠だと思う…。
ゆるりと読む洋書
『チャーリーとチョコレート工場 』のロアルド・ダールさんの児童書です。ダールさんのブラックユーモアは独特で、よくよく考えると結構怖かったりします。
いじわるなおばあちゃんに仕返ししようとするジョージ少年。いや、でもいいのか、それで。
この物語も、読み終えた後、面白さの中になんとなく苦みが残る感じです。読みやすいので、ぜひ英語版にトライしてみてください。
(引用・参照元: Oxford Learner's Dictionaries, The Free Dictionary, Cambridge Dictionary, LDOCE, British National Party, Online Etymology Dictionary)